皆さんこんにちは。
突然ですが、市中の山居という言葉をご存知ですか。
この言葉は、茶の湯の世界で大切にされている概念で、
町の中にあっても山里の草庵を思わせるような、造りをした茶室や庭園を指します。
今回天神の中に、その市中の山居を思わせるような、建物があったので、紹介します。
人口に膾炙しており、多くの人が知ってはいると思いますが、アクロス福岡です。


こちら建物全体が緑化されており、まるで、山の中に迷い込んだような錯覚を受けます。
この建物は「登山」ができ、屋上の展望台まで、上ることができます。
コンクリートジャングルの町中に、点在する自然は、まるで山の中を分け入る旅情を掻き立てます。
入若耶溪 若耶溪じゃくやけいに入いる 南朝・梁・王籍
艅艎何泛泛 艅艎 よ くゎう 何なんぞ泛泛はんはんたる
空水共悠悠 空水くうすゐ 共ともに悠悠いういうたり。
陰霞生遠岫 陰霞いん か 遠岫ゑんしうに生しゃうじ,
陽景逐迴流 景やうけい 迴流くゎいりうを逐おふ。
蟬噪林逾靜 蟬 せみ噪さわがしうして 林はやし 逾〻いよいよ靜かに,
鳥鳴山更幽 鳥 とり鳴ないて 山やま 更さらに幽いうなり。
此地動歸念 此この地 歸念きねんを動うごかし,
長年悲倦遊 長年ちゃうねん 倦遊けんいうを悲しむ。
美しい飾り船に乗り、渓流に浮かべば、
空も水もゆったりと 遥かに広がる。
遠い山の端に 雲や霞が湧き立ち
流れを曲がるたび 光が水面に差し込む
蝉しぐれに 林はいっそう静けさを増し
鳥が鳴くと 山はさらに閑寂を深める
ここにいると 悲しく 故郷へ帰りたくなる
もう疲れてしまった 長年のさすらいには 引用 茶席から広がる漢詩 p74 諸田龍美 淡交社 2017年

上記の漢詩は良く鳥鳴いて山更に幽なりの詩句が禅や茶の湯の世界で引用され、掛け軸で飾られます。
鳥が鳴いていると山の静けさがより強調されるのは、感覚的にも良くわかることです。
更に、禅の世界では、心の平穏さとリンクさせて、真の静寂は自身の心の中にあると示すのです。
そのため、都会の中に山居を設けるという、逆説的な営みを通じて、美意識を洗練させていくのです。
述懐の中で、その観念をしみじみと感じて閉めさせていただきます。